少年野球において、筋肉を作り体を大きくするためにタンパク質を重視する考え方は一般的です。しかし、成長期の子供にとって重要なのは、単にタンパク質の「量」を増やすことではなく、その「質」を見極め、多様な食品から摂取することです。最新の栄養学に基づき、プロテインサプリメントに頼るリスクと、理想的なタンパク質摂取のあり方を解説します。
目次
1. 成長に必要なのは「量」ではなく「質の高いアミノ酸」
タンパク質は、体内で組織の成長と維持に必要な窒素と不可欠アミノ酸の供給源となります。
- タンパク質の質の評価: タンパク質の質は、アミノ酸スコア(PD-CAASなど)によって評価されます。
- 動物性タンパク質の優位性: 肉、魚、卵、乳製品などの動物性食品(ASF)は、成長に必要な不可欠アミノ酸を最適なバランスで含む「高品質なタンパク質」と見なされています。これらは植物性食品よりも筋肉や組織の合成効率が高いのが特徴です。
2. 「タンパク質の摂り過ぎ」が招く将来の肥満リスク
「プロを目指すならたくさん食べろ」という指導は、科学的には注意が必要です。
- 早期の過剰摂取と肥満: 乳幼児期や学童期における高いタンパク質摂取(特に総エネルギーの15〜20%以上)は、将来(学童期以降)のBMI上昇や肥満リスクの増加と強く関連していることが示されています。
- 乳製品タンパクの影響: 特に乳製品からの過剰なタンパク質摂取は、成長因子(IGF-1)を刺激し、骨の成長を助ける一方で、過剰な体重増加を招く可能性が指摘されています。
3. サプリメント(プロテイン)の罠と「完璧な食品」
便利なプロテインパウダーですが、成長期の子供にとっては「自然な食品」から得られる副次的な栄養素を失うという大きなデメリットがあります。
- サプリメントは代替にならない: 強化された栄養製品は、健康的で最小限の加工を施した多様な食事の代わりにはなりません。
- 「パッケージ」としての栄養: 例えば「卵」は、完璧なタンパク質源であるだけでなく、脳の発達と神経伝達に不可欠なコリンの宝庫でもあります。
- 微量栄養素の欠乏: 赤身の肉や魚をプロテインパウダーに置き換えてしまうと、野球少年にとって極めて重要な鉄分、亜鉛、ビタミンB12といったミネラルやビタミンの摂取機会を逃すことになります。
4. 適切なタンパク質摂取量の目安
欧州食品安全機関(EFSA)の基準による、成長を維持するための1日あたりのタンパク質摂取推奨量(PRI)は以下の通りです。
- 7〜10歳: 体重1kgあたり約0.91g
- 11〜14歳: 体重1kgあたり約0.90g(男子)/ 0.89g(女子)
- 15〜17歳: 体重1kgあたり約0.88g(男子)/ 0.85g(女子)
※激しい練習を行うアスリートの場合はこれより高い要求量が必要になる場合もありますが、それでも食事全体のエネルギー比率で15%程度に留めることが、将来の健康リスクを避ける目安となります。
指導者・保護者へのアドバイス
「プロテインで体を大きくする」という安易な方法に飛びつく前に、まずは毎日の食卓に「肉・魚・卵・乳製品」がバランスよく並んでいるかを確認してください。
- 卵を毎日1個摂る: 脳と体の両方の成長をサポートします。
- 多様なタンパク源: 牛・豚・鶏だけでなく、DHAを含む魚も週に数回は取り入れましょう。
- サプリメントは「最終手段」: 基本はあくまでリアルフード(本物の食べ物)です。サプリメントの使用は、専門家の指導なしに子供の判断で行わせるべきではありません。
科学的に正しいタンパク質戦略は、子供を「不健康な巨大化」から守り、真に動けるアスリートの体へと導きます。
参照資料
- WHO Guideline for complementary feeding 2023
- EFSA Dietary Reference Values for nutrients Summary report
- Scientific Report of the 2025 Dietary Guidelines Advisory Committee
- ESPGHAN Position Statement (2024)
