エネルギー配分の法則:なぜ「猛練習」が成長を止めるのか

少年野球の現場では、「歯を食いしばって練習に打ち込む」「限界まで自分を追い込む」といった根性論がいまだに美徳とされることがあります。しかし、内分泌学(ホルモンの科学)の視点で見ると、発達段階にある子どもにとっての「過度な練習(オーバーワーク)」は、皮肉にも彼らの「成長(身長の伸び)」を物理的に停止させる要因となります。

ここでは、体が持つ「エネルギー配分の優先順位」という生物学的なルールに基づいて、なぜ猛練習が成長障害を引き起こすのかを詳しく解説します。

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目次

1. 体が守る「エネルギー配分の優先順位」

人間の体内で使えるエネルギー(利用可能エネルギー)の総量は限られています。体はその限られたエネルギーを、以下の優先順位に従って分配します。

  1. 生存(最優先): 心臓を動かす、体温を維持する、脳の機能を保つなど。
  2. 身体活動: 野球の練習、走る、投げるなどの筋肉運動。
  3. 成長と修復: 骨を伸ばす(身長)、筋肉を太くする、傷ついた組織を直す。
  4. 生殖・二次性徴: 思春期の訪れ、生殖機能の発達。

猛練習によってエネルギーのほとんどが「2. 身体活動」に消費されてしまうと、体は「1. 生存」を守るための緊急事態モードに入ります。その結果、「3. 成長」や「4. 二次性徴」に回されるはずのエネルギー配分が後回し、あるいはカットされてしまうのです。

2. 成長ホルモンが出ても「背が伸びない」メカニズム

「運動すれば成長ホルモンが出るから背が伸びる」というのは、あくまで栄養が満たされていることが前提の理論です。内分泌学的には、以下の「エネルギーの矛盾」が起こります。

  • 偽りの分泌: 成長ホルモン(GH)は運動だけでなく、空腹や低血糖(エネルギー不足)といった「ストレス状態」でも分泌が高まります。これは、体が組織を維持しようとする防御反応です。
  • IGF-1のストップ: 実際に骨を伸ばす役割を果たすのは、肝臓で作られる「IGF-1(インスリン様成長因子1)」です。しかし、IGF-1は「十分な栄養状態」がないと合成されません
  • 結論: 猛練習でエネルギーを使い果たした状態では、脳から成長ホルモンが出ていても、肝臓が「今は骨を伸ばしている余裕はない」と判断してIGF-1を作らなくなります。これが、「頑張って練習しているのに背が伸びない」科学的根拠です。

3. 猛練習が招く「機能性低性腺刺激ホルモン症」

過度な練習とエネルギー不足が重なると、脳の視床下部というコントロールセンターが、「今は子孫を残す(大人になる)準備をする時期ではない」という信号を出します。

  • 思春期の停滞: これを「機能性低性腺刺激ホルモン症」と呼びます。本来、一生で最も身長が伸びる「成長スパート」が起こるはずの時期に、猛練習によるエネルギー枯渇が起こると、思春期の到来が遅れたり、スパートが弱まったりします
  • 将来への影響: 少年野球で無理をさせた結果、中学・高校という本来大きく伸びるべき時期に伸び代を使い切れない、あるいはスタートが切れないという弊害を招く恐れがあります。

4. 「夏の主戦場」がもたらす代謝の破壊

昨今の酷暑の中での練習は、単なる肉体疲労以上のダメージを内分泌系に与えます。

  • 逆T3の増加: 体は過酷な環境や病気、飢餓に直面すると、全身の代謝を司る甲状腺ホルモンの働きをあえて抑制し、エネルギー消費を抑えようとします。このとき「リバースT3(逆T3)」という代謝を抑制する物質が増え、体は「冬眠状態」のように省エネモードに入ります。
  • 成長の完全停止: 熱中症のリスクがあるほどの猛暑下での運動は、この代謝抑制を加速させます。成長期の貴重な数ヶ月間を、成長がストップした「生存維持のみ」の状態で過ごすことは、子どもの将来にとって大きな損失です。

5. 指導者・保護者への提言:根性論からの脱却

子どもが「食事が喉を通らないほど疲れている」「練習後にぐったりして動けない」状態にあるなら、それは科学的に見て「体を壊し、成長を止めている」サインです。

  • 適切な練習量: ホルモンが「成長」にエネルギーを回せる余力を残した強度に設定する。
  • 戦略的休息: 成長ホルモンの分泌ピークである夜間の深い睡眠を確保する。
  • 栄養の確保: 「食べさせる」ことと同じくらい、エネルギーを「使いすぎない」ことに意識を向ける。

野球で勝つための体作りは、歯を食いしばる練習量ではなく、内分泌系を健全に機能させるための「余裕」と「科学的管理」によって成し遂げられるべきです。

参考文献

  • Philip G. Murray, Peter E. Clayton, “Disorders of Growth Hormone in Childhood”, Endotext (2022).
  • Berrin Ergun-Longmire, Michael P. Wajnrajch, “Growth and Growth Disorders”, Endotext (2025).
  • Kanthi Bangalore Krishna, Selma Feldman Witchel, “Normal and Abnormal Puberty”, Endotext (2024).
  • Merck Manual Professional Edition, “Generalized Hypopituitarism” and “Growth Hormone Deficiency in Children” (2024-2025).
  • MSD Manual Professional Edition, “Hypothyroidism in Infants and Children” (2024).
  • Aristides Maniatis, et al., “Long-Acting Growth Hormone Therapy in Pediatric Growth Hormone Deficiency: A Consensus Statement”, The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism (2025).
  • National Institute of Diabetes and Digestive and Kidney Diseases (NIDDK), “Acromegaly”.
  • International Growth Genetics Guideline Consortium, “International guideline on genetic testing of children with short stature” (2025).
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